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前進座『四谷怪談』讃

一昨日の15日、前進座の『東海道四谷怪談』を観てきた。
面白い。
直助権兵衛役の藤川矢之輔が貫禄をみせ、四幕十場の長丁場を引き締める。
時間の都合で割愛されがちな「三角屋敷」や「夢」の場をみせるのが売りの今回の上演だが、「夢」はともかく「三角屋敷」を割愛した芝居に意味があるのだろうか。

「夢」の場にしても、大詰め直前にお岩と伊右衛門との蜜月を描くことで悲劇をクローズアップする狙い目があるわけで、観客は南北の劇作法の上手さをあらためて味わうのだ。
「三角屋敷」の場は、藤川さんも制作発表時に語られているように、南北の真骨頂が発揮されているわけで、この場を割愛すると、直助・お袖・与茂七の役どころの意味がなくなってしまう。不実をはたらいた伊右衛門がお岩に祟られて自滅するだけの話なら、名作とはなり得ない。皮肉な人間関係の因果を描くところに南北の真骨頂がある。
お袖を我が物にしようとお袖の夫・与茂七を殺す直助。だが殺したのはかつて仕えていた主の息子・・・
「三角屋敷」の場を割愛するなんて考えられない。

「三角屋敷」の場は直助・お袖・与茂七の三角関係の悲劇を描いているが、通し狂言全体からみると、直助・伊右衛門・与茂七という、塩冶ゆかりの失業者の三者三様の生き様を描いた三角図が展開されているのだ。すなわち、忠義者としての与茂七、金と出世のために不忠をはたらく伊右衛門、恋のために知らず不忠者になる直助(そして、それらの男たちによって翻弄されるお岩とお袖)・・・第三幕のだんまりがそれを表しているのは言うまでもない。次の幕ですべてのドラマが修練されてゆくことを暗示するように、隠亡堀の土手で三人がそれぞれ見得を切る見せ場は最高のクライマックスだ。

また、直助・伊右衛門・与茂七の三角関係に、直助・お袖・与茂七の三角関係が入れ子になっているところに、ミステリ作家・サスペンス作家としての南北を感じる。
ただ、難をいえば、直助とお袖が兄妹であった展開は唐突過ぎる。ミステリでは第一章(あるいは序盤)で犯人を登場させないとアンフェアになる。南北も第一幕でお袖が四谷左門の養女であることを語らせるべきだった。それほど恩義があるからこそ左門のために地獄宿で働くことも厭わなかったとすれば納得がゆく。おそらく、南北も後にこのことを反省して、新たに皮肉で残酷な三角関係の芝居を書いたのだろう。すなわち『盟三五大切』。

『四谷怪談』にしても『三五大切』にしてもしっかりと歌舞伎で観るのもいいが、小劇場で観てみたい。できればテント芝居で。
前進座は演劇のデパートと呼ばれてきたのだからテント芝居にもチャレンジして欲しい。垢離場や貧乏長屋といった江戸社会の底辺に蠢く人間模様をテントで。
なにより、
ひとつの劇団がひとつの演目を歌舞伎とアングラ・ヴァージョンで上演しわける。
画期的だと思うのだが。

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